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FOUNDATION Fieldbusの機器構成:図解でわかるH1/HSEモデル

Foundation Fieldbus 計装
Foundation Fieldbus
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1. 導入: FOUNDATION Fieldbusとは何か?

FOUNDATION Fieldbusは、Fieldbus Foundation™によって開発されたオープンなネットワーク規格であり、産業用オートメーションの分野で広く利用されています。日本国内では、日本フィールドバス協会が普及活動を行っています。

1990年代、産業界では主にアナログ信号(4~20mA)が通信手段として用いられていましたが、FOUNDATION Fieldbusは、これらのアナログ信号を置き換えるデジタル通信技術として登場しました。デジタル通信の導入により、双方向での信号のやり取りや、1本のケーブルに複数の機器を接続するマルチドロップ接続が可能になり、プラントや工場の自動化システム構築に革新をもたらしました。

この記事では、FOUNDATION Fieldbusの中でも特に基本的なH1モデルに焦点を当て、その基礎から、より高速なHSEモデルとの比較、利点、構成要素、活用事例まで、初心者の方にもわかりやすく解説します。

H1モデル、HSEモデル、それぞれの特徴と関係性を理解することで、FOUNDATION Fieldbusの全体像を把握し、現場での活用イメージを掴むことができるようになるでしょう。

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2. H1モデルの基礎とHSEモデルとの比較

FOUNDATION FieldbusにはH1とHSEという二つのモデルが存在します。下記はその概念を示した図になります。

Foundation Fieldbusの構成

Foundation Fieldbusの構成

H1モデルの物理層

H1モデルは、物理層として2線式の配線を使用し、31.25kbpsという低速バスで通信を行います。この低速バスでありながら、最大で31台もの機器をネットワークに接続できるのが特徴です。

ケーブルには、ノイズの影響を受けにくいツイストペアケーブルが用いられ、ケーブルの終端には信号の反射を防ぐための100Ωのターミネータ(終端抵抗)が取り付けられます。

イメージとしてはFA分野でよく使用されるRS-485通信やCC-Linkと似たようなものだと考えてもらえれば良いと思います。

Foundation Fieldbusの配線イメージ

Foundation Fieldbusの配線イメージ

ケーブルの種類は、主にType A, B, C, D があり、それぞれ最大伝送距離が異なります。

  • Type A: 最大1900m
  • Type B: 最大1200m
  • Type C: 最大400m
  • Type D: 最大200m

H1モデルの通信速度と伝送距離

H1モデルの通信速度は31.25kbpsと、現代のネットワーク技術から見ると低速ですが、産業用オートメーションの分野では、センサーやアクチュエータなどのフィールド機器との通信には十分な速度です。

最大伝送距離は、前述の通りケーブルの種類によって異なりますが、Type Aケーブルを使用した場合、最大1900mの長距離伝送が可能です。

ただし、ネットワークに分岐を設ける場合は、接続するデバイスの数に応じて、分岐ケーブルの最大長が制限されます。

  • 1~12台のデバイス接続の場合:最大分岐長 120m
  • 25~32台の場合:分岐は不可

H1モデルのデータリンク層

H1通信は、マスタ・スレーブ方式で通信を行います。ネットワーク上には、LAS(Link Active Scheduler)機能を持つリンクマスタ機器が必ず1つ存在し、ネットワーク全体の通信を管理します。

これも構成としてはRS-485通信やCC-Linkと似たような形ですね。

LASは、どの機器に対して、どの順番で、どのデータを送信するかを制御し、ネットワーク内の通信タイミングを調整します。トークンによる通信タイミング管理も行われており、任意タイミングでの通信にも対応可能です。LASは、各スレーブ機器の実行タイミングを同期させる役割も担っています。

ファンクションブロックとは?

ファンクションブロック(FB)は、FOUNDATION Fieldbusにおける重要な概念で、計測や制御における共通の機能モデルです。PID制御、アナログ入力、アナログ出力など、フィールド機器や制御システムで一般的に使用される機能を、標準化されたブロックとして表現します。

ファンクションブロックは、入力、出力、内部パラメータを持ち、ブロック内で処理されたデータは、出力パラメータとして外部に提供されます。

ファンクションブロックには、大きく分けて以下の3種類があります。

  • リソースブロック: デバイスの基本情報やステータスを管理
  • FF機能ブロック: 制御や計測などの主要な機能を提供(例:PID制御、AI、AO)
  • トランスデューサブロック: センサーやアクチュエータなどの物理的なI/Oを扱う

デバイスディスクリプション(DD)とは?

デバイス記述(DD: Device Description)は、ファンクションブロックに関する詳細な情報を提供するものです。DDのおかげで、ユーザーはパラメータをインデックス番号ではなく名前で参照できるようになり、その値はデータタイプ表示仕様書に従って適切に表示されます。

DDは、ヒューマンマシンインタフェース(HMI)やシステム構築、保守作業を大幅に効率化するために不可欠な要素です。異なるメーカーの機器であっても、DDによって一貫した方法でパラメータにアクセスし、設定や監視を行うことができます。

HSEモデルの概要

HSE(High Speed Ethernet)は、FOUNDATION FieldbusでH1モデルよりも高速な通信を必要とする場合に使用されるネットワークです。HSEは、H1モデルのマスタ機器同士を接続する高速バスとして機能します。

HSEの前身となるH2というバス規格も存在しましたが、HSEはH2をベースに、伝送速度を100Mbpsまで高速化したものです。Ethernet技術を基盤としているため、既存のEthernetネットワークとの親和性が高く、システム構築の柔軟性が向上します。

H1とHSEの使い分け、連携方法

H1モデルは、主にセンサーやアクチュエータといったフィールド機器との低速な通信に適しています。一方、HSEモデルは、H1ネットワークを制御する上位のマスタ機器間での高速なデータ交換を担います。

H1とHSEは、リンキングデバイスと呼ばれる中継機器を介して連携します。リンキングデバイスは、H1ネットワークとHSEネットワーク間のデータ変換を行い、相互の通信を可能にします。これにより、プラントや工場全体の制御システムを、階層的かつ効率的に構築することができます。

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3. FOUNDATION FieldbusとHART通信の比較

FOUNDATION FieldbusとHART通信は、どちらも産業用オートメーションで広く利用される通信プロトコルですが、それぞれに特徴があります。ここでは、両者を比較し、それぞれの違いと使い分けについて解説します。

通信方式

  • FOUNDATION Fieldbus: デジタル通信方式を採用しています。H1モデルは低速デジタル通信、HSEモデルは高速デジタル通信を行います。デジタル信号を用いるため、ノイズに強く、高精度なデータ伝送が可能です。
  • HART通信: アナログ通信デジタル通信を組み合わせたハイブリッド通信方式です。4~20mAのアナログ信号にデジタル信号を重畳して通信を行います。アナログ信号とデジタル信号を同時に送受信できるため、従来の4-20mAシステムとの互換性を保ちつつ、デジタル通信のメリットを付加できます。

通信速度

  • FOUNDATION Fieldbus: H1モデルは31.25kbps、HSEモデルは100Mbpsと、用途に応じて異なる速度の通信が可能です。HSEモデルは高速なデータ通信が必要な場合、H1モデルはフィールド機器との低速な通信に適しています。
  • HART通信: デジタル通信速度は1.2kbpsと低速です。HART通信の主な目的は、4-20mAアナログ信号による基本的な制御に加えて、追加のデジタル情報を伝送することにあります。高速なデータ通信には向いていません。

データ容量

  • FOUNDATION Fieldbus: デジタル通信のため、データ容量が大きく、プロセスデータに加えて、機器診断情報、設定パラメータなど、様々な情報を双方向で伝送できます。ファンクションブロックを用いることで、複雑な制御も実現可能です。
  • HART通信: デジタル信号で伝送できるデータ容量は限定的です。主に機器のステータス情報や設定変更などの付加情報の伝送に用いられます。プロセス変数の高速なサンプリングや、大量のデータ伝送には不向きです。

配線

  • FOUNDATION Fieldbus: H1モデルは2線式の配線で、マルチドロップ接続が可能です。1本のケーブルに複数の機器を接続できるため、配線コストを削減できます。
  • HART通信: 主に2線式または4線式の配線が用いられます。ポイントツーポイント接続が基本ですが、**マルチドロップ接続(HARTマルチプレクサが必要)**も可能です。ただし、マルチドロップ接続時の応答速度は低下します。

コスト

  • FOUNDATION Fieldbus: 導入コストは、HART通信と比較して一般的に高くなります。特にHSEモデルを導入する場合は、ネットワーク機器やリンキングデバイスなど、追加の機器が必要になるため、コストが増加する傾向があります。しかし、長期的に見ると、省配線によるコスト削減、高度な診断機能によるメンテナンスコスト削減などのメリットが期待できます。
  • HART通信: 導入コストは、FOUNDATION Fieldbusと比較して一般的に安価です。既存の4-20mAシステムをベースに拡張できるため、既存設備への導入が容易です。ただし、高度なネットワーク機能や大容量データ通信が必要な場合は、システム構築が複雑になる可能性があります。

複雑さ

  • FOUNDATION Fieldbus: システム構築は、HART通信と比較してやや複雑になる傾向があります。特にHSEモデルを含むシステムや、ファンクションブロックを活用した高度な制御システムを構築する場合は、専門的な知識やエンジニアリングスキルが必要になります。
  • HART通信: システム構築は、FOUNDATION Fieldbusと比較して比較的容易です。既存の4-20mAシステムにデジタル通信機能を付加する形であるため、導入のハードルは低いと言えます。シンプルな機器監視や設定変更などの用途には適しています。

用途

  • FOUNDATION Fieldbus: プロセスオートメーションファクトリーオートメーションなど、高度な制御、プラント全体の統合的な管理、大容量データ通信、高精度な診断機能が求められる用途に適しています。特に、大規模プラントや複雑な制御システムに有効です。
  • HART通信: シンプルな機器監視設定変更基本的なプロセス制御など、比較的シンプルな用途に適しています。既存の4-20mAシステムからの移行、小規模なシステム、低コストでのデジタル化を目指す場合に有効です。
比較項目 FOUNDATION Fieldbus (H1) HART通信
通信方式 デジタル通信 ハイブリッド(アナログ+デジタル)
通信速度 31.25kbps 1.2kbps(デジタル部)
データ容量 大きい 限定的
配線 2線式、マルチドロップ 2線/4線式、ポイントツーポイント(マルチドロップ可)
導入コスト
システム構築の複雑さ やや複雑 比較的容易
主な用途 高度な制御、大規模プラント シンプルな監視、小規模システム
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3. H1モデルの利点

H1モデルには、従来のアナログ通信や他の産業用ネットワークと比較して、以下のような多くの利点があります。

  • デジタル通信による高精度なデータ伝送: アナログ信号と異なり、ノイズの影響を受けにくく、より正確なデータ伝送が可能です。
  • 双方向通信による診断機能: 機器の状態を常に監視し、異常や故障を早期に発見して、プラントの安定稼働に貢献します。
  • マルチドロップ接続による省配線: 1本のケーブルに複数の機器を接続できるため、配線コストを大幅に削減できます。
  • 相互運用性: 異なるメーカーの機器間でも通信が可能で、システム構築の自由度を高めます。
  • 本質安全防爆: 危険場所で使用できる本質安全防爆に対応しており、安全性が求められる環境にも適用可能です。
Foundation Fieldbusの実構成例

Foundation Fieldbusの実構成例

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4. H1モデルの構成要素

H1モデルのネットワークを構築するためには、以下の要素が必要になります。

  • H1フィールドデバイス: 現場に設置されるセンサー、アクチュエータ、変換器など。
  • H1インターフェースカード: 制御システム(PLC、DCSなど)とH1ネットワークを接続するためのインターフェース。
  • H1電源: H1ネットワークに電力を供給する電源ユニット。
  • ターミネータ: ケーブル両端に設置し、信号の反射を防ぐ抵抗器。
  • H1ケーブル: 2線式のツイストペアケーブル。
  • ブリッジ、リンキングデバイス: 必要に応じて、異なるネットワーク(HSEなど)間の通信を中継する機器。
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5. H1モデルの活用事例

H1モデルは、その優れた特性から、様々な産業分野で活用されています。

  • プロセスオートメーション: 化学プラント、石油精製プラント、医薬品プラントなど、連続生産プロセスを自動化する分野で、精密な制御と監視を実現します。
  • ファクトリーオートメーション: 自動車工場、食品工場、半導体工場など、製造ラインの自動化に貢献し、生産効率と品質の向上に寄与します。
  • ビルディングオートメーション: 空調、照明、セキュリティシステムなど、建物設備の自動化に利用され、省エネルギーと快適な環境を実現します。
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6. まとめ

H1モデルのメリット

  • 高精度なデータ伝送
  • 双方向通信による診断機能
  • 省配線
  • 相互運用性
  • 本質安全防爆

H1モデルのデメリット

  • 通信速度が比較的遅い

HSEモデルとの関係性

  • HSEはH1を補完する高速ネットワーク
  • 高速通信が必要な上位システムで使用

今後の展望

  • 無線技術との連携による柔軟性の向上
  • さらなる高速化、高機能化
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7. 参考文献

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