はじめに
工場や化学プラントで働く皆さん、「キャンドポンプ」という言葉を聞いたことはありますか?「名前は知っているけど、詳しい仕組みはよく分からない…」という方も多いかもしれません。
キャンドポンプは、人体に有害な液体や、引火・爆発の危険がある液体を扱う現場で、「絶対に漏らしてはいけない」という重要な使命を担う、まさに縁の下の力持ちです。なぜこのポンプは液体を漏らさないのでしょうか?そして、安全に使い続けるためには、どんなことに気をつければ良いのでしょうか?
この記事では、そんなキャンドポンプの基本原理から、その心臓部である構造、さらには予知保全の鍵となるベアリングモニタの技術まで、初心者の方にも分かりやすく、一歩踏み込んで徹底解説していきます!
キャンドポンプとは?従来のポンプとの決定的な違い
従来のポンプが抱える「漏洩」のリスク
まず、なぜ「漏れない」ポンプが必要なのでしょうか。一般的な遠心ポンプでは、モーターの回転力をポンプ内部の羽根車(インペラ)に伝えるため、「シャフト」と呼ばれる回転軸がポンプ本体(ケーシング)を貫いています。
この貫通部分から液体が漏れ出さないように、「メカニカルシール」や「グランドパッキン」といった部品(軸封装置)が使われています。しかし、これらは摺動(すり動く)部品であるため摩耗は避けられず、時間と共に劣化して、どうしてもわずかな液漏れが発生する可能性がありました 。
もし、扱っている液体がただの水であれば大きな問題にはなりませんが、これが人体に有害な化学薬品や、引火・爆発性の液体だった場合、そのわずかな漏洩が重大な事故に繋がりかねません 。
「缶詰」構造が実現する完全無漏洩
この根本的な問題を構造から解決したのが、キャンドモータポンプです 。
キャンド(canned)とは「缶詰にされた」という意味の通り、ポンプとモーターが一体化し、液体と一緒に一つの密閉された容器の中に完全に封じ込められています 。
この構造の最大の特徴は、ポンプ外部へと貫通する回転軸(シャフト)そのものが存在しないことです。そのため、原理的に液体が外部に漏れる経路がなく、「完全無漏洩」が実現できるのです 。
【図解】キャンドポンプの仕組みを深掘り!
では、どうやって外部から、密閉された内部の羽根車を回転させているのでしょうか。その秘密は「電磁誘導」と、自己完結型の「内部循環」にあります。
磁力で回す「電磁誘導」の原理
キャンドポンプは、磁石の力が壁を通り抜ける性質を応用しています。
- ステータ(固定子): 容器の外側に配置された、電線を巻いたコイルです。ここに三相交流電流を流すと、N極とS極が入れ替わりながら回転する磁力(回転磁界)が発生します 。
- キャン(Can): ステータと内部のロータを物理的に隔てる、薄い非磁性金属(ステンレスやハステロイなど)の筒です 。このキャンを、ステータが発生させた回転磁界が通り抜けます。
- ロータ(回転子): 容器の内部にある、誘導電流が流れやすい導体でできたカゴ状の部品です。キャンを透過してきた回転磁界を受けると、電磁誘導の原理(アラゴの円盤と同じ原理)によって誘導電流が発生し、回転トルクを得てステータの回転磁界を追いかけるように回転します 。
- インペラ(羽根車): ロータと同じ軸につながっており、ロータの回転によって遠心力を発生させ、液体を送り出します 。
つまり、物理的な接触なしに、磁力だけを壁越しに伝えて内部の機構を回しているのです。
自分自身で冷やす「内部循環」の役割
キャンドポンプにはもう一つ、非常に合理的な仕組みがあります。それは、ポンプで送っている液体の一部を、モーターの冷却とベアリング(軸受)の潤滑に利用する「内部循環」というシステムです 。
標準的なポンプでは、インペラから吐出された高圧の液体の一部が、意図的に設けられた小さな通路(循環ライン)を通ってモーター側へ導かれます。そして、モーターの発熱を奪い、回転を支える滑り軸受(スリーブベアリング)の潤滑膜を形成した後、再びポンプの吸込側の低圧部へと戻っていきます 。
この仕組みのおかげで、外部から冷却水や潤滑油を供給する必要がなく、コンパクトで静かな運転が可能になるのです 。
キャンドポンプのメリットとデメリット
ここで、キャンドポンプの長所と短所を整理してみましょう。
メリット
- 完全無漏洩: 危険な液体も安全に扱え、環境汚染の心配もありません 。
- 静音・低振動: 冷却ファンが不要で、回転部が液体に満たされているため、運転音が非常に静かです 。
- コンパクト&省スペース: モーターとポンプが一体化しているため、設置面積が小さく済みます 。
- メンテナンスが容易: 設置時の芯出し(アライメント)作業が不要です 。
デメリット
- 扱える液体に制限がある: 液体でベアリングを潤滑・冷却するため、固形物(スラリー)を含む液体や、粘度が高すぎる液体、気化しやすい液体は標準型では苦手です。
- 内部の状態が見えない: 完全に密閉されているため、内部のベアリングが摩耗していても外から確認することができません。
この「内部の状態が見えない」という致命的なデメリットを克服するために、非常に重要な装置が開発されました。それが次に紹介する「ベアリングモニタ」です。
【最重要】ベアリングモニタの原理を徹底解説!
ベアリングはキャンドポンプの中で最も重要な摩耗部品です 。もし、このベアリングの摩耗に気づかずに運転を続けると、最悪の場合、回転しているロータがキャンに接触して破損し、危険な液体が漏洩する大事故につながる可能性があります 。
そこで、密閉されたポンプ内部のベアリングの状態を、外部から電気的に監視するために開発されたのがベアリングモニタです。これは、ポンプの「健康状態」をリアルタイムで知らせてくれる、いわば聴診器のようなものです 。
主要メーカーである帝国電機と日機装は、それぞれ異なるアプローチでこの課題を解決しています。
帝国電機「TRG」:磁気の乱れを捉える間接検知
帝国電機の「TRG(テイコク・ロータリー・ガーディアン)」は、モーター自身の物理現象を巧みに利用した間接検知方式です 。
- 原理:
- 平衡状態: ベアリングが正常な時、ロータはステータの中心で回転し、両者の隙間(エアギャップ)は均一です。このとき、ステータとロータが作る磁界は同心円状でバランスが取れています 。
- 不平衡状態: ベアリングが摩耗すると、ロータの回転中心がズレてエアギャップが不均一になります 。
- 磁気不平衡の発生: この幾何学的なズレにより、磁束の分布に不平衡(アンバランス)が生じます。
- 電圧の誘導: この不平衡な磁束の変化を捉えるため、ステータ巻線の中に特殊な検出コイルが組み込まれています。磁気アンバランスによって、この検出コイルに電圧が誘導されます 。
- 摩耗量の検知: 誘導される電圧の大きさは、磁気アンバランスの度合い、すなわちベアリングの摩耗量に比例します。この電圧を測定することで、外部から内部の摩耗状態を定量的に把握できるのです 。
メーターの表示は信号機のように色分けされており、直感的に状態を把握できます 。
- 緑(Green): 正常
- 黄(Yellow): 要注意(メンテナンス計画を立てる時期)
- 赤(Red): 危険(直ちにポンプを停止)
日機装「Eモニタ」:ロータの位置を測る直接検知
日機装の「Eモニタ」は、TRGとは異なる思想に基づいた直接検知方式です 。
- 原理:
- センサー配置: ステータ内部の複数箇所に、専用のセンサー(プローブまたはサーチコイル)が埋め込まれています 。
- 位置の直接検出: これらのセンサーは、運転中のロータとの間の物理的な距離(ギャップ)を常に監視しています 。
- 摩耗の検知: ベアリングが摩耗すると、ロータの回転中心が半径方向(ラジアル)にズレたり、軸方向(アキシャル)に移動したりします。この物理的な位置の変化を、各センサーがギャップの変化として直接検出します 。
- 状態の診断: 複数のセンサーからの信号を電子回路で処理し、ラジアル・アキシャル両方向の摩耗の大きさと方向を精密に診断します。特許情報によれば、これは磁気回路のリラクタンス(磁気抵抗)の変化として捉えられています 。
こちらもLEDの色で状態を表示するほか、プラントの制御システム(DCS)に4-20mAの電流信号でデータを送るなど、遠隔での監視や自動停止といったシステム連携も容易になっています 。
キャンドポンプの保守点検と禁止事項
最後に、キャンドポンプを安全に長く使うための日常的なメンテナンスと、絶対にやってはいけない注意点について解説します。
日常点検と予知保全
専門的な分解点検はプロに任せるとして、日常の運転では以下の点を確認しましょう。
- ベアリングモニタの指示値: 毎日確認し、新品設置時からの変化量を記録・監視することが、故障を未然に防ぐ「予知保全」の第一歩です 。
- 異音や異常振動: いつもと違う音や振動を感じたら、何らかの異常のサインです。すぐに担当者に報告しましょう。
絶対にやってはいけない運転【超重要】
以下の運転は、ポンプに致命的なダメージを与え、重大な故障に繋がるため絶対に禁止です 。
- 空運転: ポンプ内部に液体がない状態で運転すること。潤滑・冷却ができず、ベアリングが数秒で焼き付いてしまいます 。
- 締切運転: 吐出側のバルブを閉じたまま運転すること。ポンプ内部で液体が撹拌され続け、液温が急上昇し、液体の気化(ベーパロック)や部品の熱的損傷を引き起こします 。
- 逆回転: ポンプが正常に機能しないだけでなく、部品に予期せぬ応力がかかり破損の原因となります 。
おわりに
今回は、キャンドポンプの基本原理から、その心臓部である構造、そして運転の要であるベアリングモニタの技術、さらには日常のメンテナンスまでを、一歩踏み込んで解説しました。
- キャンドポンプは、ポンプとモーターが一体化した「缶詰」構造で、回転軸の貫通部をなくすことで原理的に液漏れしない。
- ステータが作る回転磁界が「キャン」を透過し、内部のロータを電磁誘導で回している。
- 送液する液体の一部を、モーターの冷却とベアリングの潤滑に利用する「内部循環」システムを持つ。
- 内部の状態を知るため、「ベアリングモニタ」という監視装置が不可欠。TRG(間接検知)とEモニタ(直接検知)の2つの方式がある。
- 「空運転」「締切運転」はポンプを短時間で破壊するため絶対に禁止。
完全無漏洩という優れた特徴を持つキャンドポンプですが、その信頼性は、こうした独自の構造と、それを支える監視技術への正しい理解の上に成り立っています。
この記事が、皆さんの現場での安全なポンプ運用の一助となれば幸いです。





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