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油入変圧器の寿命を予測!劣化診断の種類(絶縁油試験、油中ガス分析、フルフラール試験)

油入変圧器_絶縁油診断 高圧
油入変圧器_絶縁油診断
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はじめに:変圧器診断の重要性

変圧器は発電所から私たちの家庭や工場まで、電気エネルギーを安全かつ効率的に届けるために、電力系統の中で非常に重要な役割を担っています。変圧器に万が一事故が発生すると、電力供給がストップしてしまうだけでなく、火災などの二次災害を引き起こす可能性もあり、大変危険です。

このような事故を未然に防ぐためには、変圧器の診断技術が非常に重要になります。しかし、変圧器の診断は専門性が高く、初心者には難しく感じられるかもしれません。

そこで、この記事では変圧器の診断技術について、初心者の方でもわかりやすく理解できるように、基本的な知識から最新の技術までを解説していきます。

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油入変圧器の構造:電気エネルギー伝達の仕組み

変圧器は、主にタンク鉄心巻線絶縁油という4つの主要な構成要素から成り立っています。

油入変圧器_構造について

油入変圧器_構造について

各構成要素の役割

  • タンク: 変圧器の外側のケースで、内部の部品を保護する役割があります。
  • 鉄心: 磁気の通り道(磁気回路)を構成し、巻線間のエネルギー伝達を効率的に行います。
  • 巻線: 入力側と出力側の電圧を変換するために、鉄心に巻き付けられたコイルです。
  • 絶縁油: 絶縁と冷却の役割を担います。変圧器内部の絶縁を保ち、発生した熱を外部へ逃がす重要な役割を果たします。

油入変圧器の特長

変圧器には、油入変圧器、モールド変圧器、ガス絶縁変圧器など、いくつかの種類がありますが、産業用では油入変圧器が多く使用されています。油入変圧器は、絶縁性能が高く、冷却効果にも優れているため、高い信頼性が求められる電力供給に貢献しています。

変圧器の種類について

変圧器の種類について

油入変圧器における絶縁油と絶縁紙の役割

油入変圧器において、絶縁油は電気的な絶縁だけでなく、流れることで熱を放熱器に運ぶ冷却の役割も担っています。また絶縁紙は、変圧器の物理的な構造を支える役割を担っています。

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絶縁油の種類と劣化のメカニズム:変圧器の寿命を左右する要因

絶縁油には、主に鉱油合成油混合油の3種類があります。

絶縁油の種類

  • 鉱油: 原油を精製したもので、炭化水素を主成分とする高分子化合物です。
  • 合成油: 化学的に合成された油で、特定の性能(耐熱性など)に優れています。
  • 混合油: 鉱油と合成油を混合したもので、両方の長所を兼ね備えています。

一般的な変圧器で使用される絶縁油

一般的な変圧器では、鉱油系の第1種2号絶縁油が使用されています。第1種2号絶縁油は、電気的特性に優れており、特に高い絶縁破壊電圧と冷却効果が求められる用途に適しています。

絶縁油劣化のメカニズム

絶縁油は、使用中に様々な要因によって劣化します。主な劣化のメカニズムは以下のとおりです。

酸化

変圧器が運転すると温度が変化し、外気との間で呼吸作用が行われます。この際、ブリーザ(吸湿呼吸器)の不良、パッキングの劣化などにより気密不良や油漏れなどがあると、絶縁油に空気中の酸素や水分が混入します。

絶縁油中の酸素や水分は、変圧器内部の鉄や銅に触れている状態で、運転中の温度上昇が加わることで酸化を促進し、絶縁油の酸価(酸性有機物質の総量)を増大させます。

スラッジ生成

酸価がさらに進むと、絶縁油と金属やコイルの絶縁物が化合し、スラッジと呼ばれる物質が生成されます。スラッジがコイル絶縁物、鉄心、放熱面に付着すると、冷却効果が低下し、温度上昇が著しくなり、絶縁物の熱劣化が加速されます。

変圧器のスラッジについて

変圧器のスラッジについて

電気特性の低下

絶縁油自体も、劣化生成物の溶解によって吸水性を増し、絶縁抵抗の低下やtanδの増加など、絶縁特性が低下します。

熱劣化

変圧器が長期間高温で運転されると、絶縁紙やプレスボードは経年的に熱劣化を生じます。特に絶縁紙は巻線に直に接していることから、変圧器の内部でも最も高温に曝されるため、絶縁紙の劣化が変圧器の寿命を左右する要素となります。

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基本的な診断技術:変圧器の定期点検で実施される試験

変圧器の定期点検は、事故を未然に防ぐために非常に重要です。定期点検では、絶縁油の状態を把握するために、様々な試験が行われます。

絶縁破壊電圧試験

試験方法:絶縁油を試験用容器に採取し、絶縁油中において油面下20mmの位置で直径12.5mmの球状電極間ギャップを2.5mmに対向させ、商用周波数の電圧を毎秒約3kVの割合で上昇させ絶縁破壊電圧を測定します。

意義: 絶縁油中の水分やごみ、絶縁物の繊維などの影響を受け、絶縁破壊電圧は低下します。絶縁破壊電圧の低下は変圧器の絶縁破壊事故の重大要因となります。

絶縁油試験_絶縁破壊電圧測定

絶縁油試験_絶縁破壊電圧測定

全酸価試験

試験方法::試料油をトルエン・エタノールの混合溶液に溶かし、アルカリブルー6Bを指示薬として水酸化カリウムの標準水溶液または標準アルコール液で滴定します。

意義:絶縁油1g中に含まれる全酸性成分を中和するのに要する水酸化カリウムのmg数を測定します。油中の水分や不純物の混入、酸化により酸価値が増加すると絶縁物の劣化を促進させ、絶縁性低下の原因にもなります。絶縁油の酸化状態を評価します。

絶縁油試験_全酸化試験

絶縁油試験_全酸化試験

体積抵抗率試験

試験方法: 絶縁油に250Vの電圧で通電した時の抵抗値から計算します。

意義: 絶縁油の抵抗値を測定します。体積抵抗率は変圧器の巻線-大地間の絶縁抵抗値と直接相関があり、絶縁油の温度上昇や油中に存在する水分、劣化物などによっても影響されます。絶縁油の絶縁性を評価します。

絶縁油試験_体積抵抗測定

絶縁油試験_体積抵抗測定

水分試験

試験方法::試料油を試薬による容量滴定方法または電気分解による電量滴定方法で行われます。

意義:油に含まれる水分量を測定する試験です。絶縁油中の水分は絶縁破壊電圧に大きく影響を及ぼし、絶縁紙の劣化も促進されます。

絶縁油試験_水分測定

絶縁油試験_水分測定

各試験の管理値

表. 絶縁油の各試験の管理値(コロナ社,電気設備の絶縁診断入門より引用)

項目
基準値
6.6[kV]以下 11~77[kV] 110~275[kV] ≧500[kV]
絶縁破壊電圧 (kV/2.5mm) ≧30 ≧30 ≧40 ≧50
水分 (ppm) <40 <40 <30 <20
全酸価 (mgKOH/g) <0.3 <0.2 <0.1 <0.1
体積抵抗率 (×10¹²Ω・cm (80℃)) >1.0 >1.0 >1.0 >5.0
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高度な診断技術:変圧器の異常を早期発見

変圧器の状態をより詳細に把握するためには、高度な診断技術が用いられます。

油中ガス分析

油中ガス分析は、変圧器内部の異常を早期に発見するための有効な手段です。変圧器内部で局部的な過熱や放電が発生すると、絶縁油や絶縁紙が分解され、様々なガスが油中に溶け出します。油中ガス分析では、これらの分解ガスを精密に分析することで異常の種類や進行度合いを把握します。

油中ガス分析について

油中ガス分析について

試験方法

ガス抽出:変圧器の絶縁油を採取し、油中に溶解しているガスを抽出します。

ガスクロマトグラフ分析:抽出したガスをガスクロマトグラフ装置に導入し、各成分ガスの種類と量を測定します。

分析対象となる主なガス

水素(H₂)、メタン(CH₄)、エタン(C₂H₆)、エチレン(C₂H₄)、アセチレン(C₂H₂)、一酸化炭素(CO)、二酸化炭素(CO₂)など。

異常の種類と発生ガスの関係

油中ガス分析では、発生するガスの種類と量から、異常の種類を推定することができます。

絶縁油の過熱:主にメタン(CH₄)、エチレン(C₂H₄)などの炭化水素ガスが発生します。
油浸固体絶縁物(絶縁紙など)の過熱: 一酸化炭素(CO)、二酸化炭素(CO₂)の発生量が増加します。

絶縁油中の放電:水素(H₂)や、特にアセチレン(C₂H₂)が特徴的に発生します。油浸固体絶縁物の放電: 一酸化炭素(CO)、二酸化炭素(CO₂)に加え、水素(H₂)、アセチレン(C₂H₂)も発生します。

判定基準と様相診断

油中ガス分析の結果は、以下の基準に基づいて評価されます。

可燃性ガス総量(TCG):全ての可燃性ガスの総量で、異常の有無を大まかに判断します。

各成分ガス量:各ガスの個別の濃度を、基準値と比較して評価します。

ガスパターン:発生ガスの種類と量の組み合わせ(パターン)から、異常の種類を推定します。

様相診断:異常診断図による診断は、各ガス成分の組成比(アセチレン/エタン、エチレン/エタン)に基づいた診断図などを用い異常の様相を評価します。電力用変圧器の不具合事例を現象別に区分したもので、右へ行くほど熱的に、上へ行くほどエネルギー的に高くなります。

油中ガス分析_様相診断

油中ガス分析_様相診断

油中ガス分析は、変圧器の安定稼働と長寿命化に貢献する重要な診断技術です。定期的な分析と適切な診断により、事故を未然に防ぎ、設備の信頼性を維持することができます。

表. 油中ガス分析の管理値(コロナ社,電気設備の絶縁診断入門より引用)

ガス成分 要注意レベルⅠ 要注意レベルⅡ 異常レベル
C₂H₂ (アセチレン) 0.5 ppm 0.5 ppm 5 ppm
C₂H₄ (エチレン) 10 ppm TCG:500 ppm かつ C₂H₄ ≧ 10 ppm TCG:700 ppm かつ C₂H₂ ≧ 100 ppm
TCG (全可燃性ガス) 500 ppm
H₂ (水素) 400 ppm
C₂H₆ (エタン) 150 ppm
CO (一酸化炭素) 300 ppm
CH₄ (メタン) 100 ppm
TCG増加率 70 ppm/月 かつ C₂H₄ ≧ 100 ppm

フルフラール試験

絶縁紙の劣化診断:絶縁紙はセルロースという物質で構成されています。セルロースは、変圧器内で熱や酸素、水分の影響を受け、CO₂やCO、フルフラール、アセトンなどの劣化生成物を生成します。フルフラール試験は、絶縁油中のフルフラール量を測定することで、絶縁紙の劣化を診断します。

フルフラール試験_フルフラールについて

フルフラール試験_フルフラールについて

試験方法: 絶縁油中のフルフラール量を測定します。

平均重合度との関係:フルフラール量とコイル絶縁紙の平均重合度は、相関関係があり、平均重合度が低下するとフルフラール量が増加する傾向があります。(以下基準値はコロナ社,電気設備の絶縁診断入門より引用)

寿命レベル平均重合度:450(信頼性が低下するレベル)
危険レベル平均重合度:250 (絶縁紙の機械的強度が消失し、形状を保持できないレベル)
新品の絶縁紙の平均重合度1000前後が劣化とともにその値が低下する

変圧器の余寿命予測: 定期的に分析を行うことで、その機器のフルフラールの増加傾向(曲線)予測できます。

アルソ(絶縁油劣化防止活性アルミナ)使用時の注意点:絶縁油劣化防止活性アルミナ(アルソ)を使用している場合、フルフラールがアルソに吸着されてしまうため正しく診断できません。この場合は、フルフラールの代わりにアセトン分析によって診断を行います。

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まとめ:変圧器診断で安心・安全な電力供給を

変圧器の診断技術は、変圧器の健全性を維持し、事故を未然に防ぐために不可欠です。定期的な診断を実施することで、早期に異常を発見し、適切な対策を講じることができます。

この記事では、変圧器の構造から診断技術まで、幅広く解説しました。この記事を参考に、変圧器の保守管理に積極的に取り組み、安全かつ安定した電力供給を実現しましょう。

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参考文献

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高圧保全
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