はじめに
私たちの生活や社会を支える電気設備において、接地(アース)は非常に重要な役割を果たしています。感電事故の防止、電気機器の保護、雷害対策など、安全で安定した電気の利用には不可欠な技術です。
この記事では接地とその接地抵抗値に関して、どのような法的根拠に基づいているのかを丁寧に解説いたします。電気設備の安全性を確保するための基本的な考え方を、しっかりと理解していきましょう。
以下にこの記事で取り扱う法令と抵抗について、まとめておきます。以降のパートで内容について解説します。
法令/規格 | 接地の種類/対象 | 接地の仕様 | 接地抵抗値 |
電気設備技術基準の解釈
|
A種:高圧・特別高圧機器の外箱など | 原則:接地極による接地 / 例外:良導体利用(等電位ボンディング、接触電圧50V以下) | 原則:10Ω以下 / 良導体利用時:2Ω以下 |
B種:高圧・特別高圧変圧器の低圧側 | 接地極による接地、または良導体利用(条件付き) | 計算値以下 | |
C種:300V超の低圧機器の外箱など | 原則:接地極による接地 / 例外:良導体利用(等電位ボンディング、接触電圧規定値以下) | 10Ω以下 | |
D種:300V以下の低圧機器の外箱など | 原則:接地極による接地 / 例外:良導体利用(等電位ボンディング、接触電圧規定値以下) | 100Ω以下 | |
JIS Z 9290-3:2019(雷保護)(建築基準法、消防法) | 建築物等の雷保護システム(避雷設備) | A形接地極、B形接地極、構造体利用接地極など | 保護レベル、地盤状況による(具体的な数値目標なし) |
JIS A 4201:2003(雷保護)(火薬取締法) | 建築物等の雷保護システム(避雷設備) | A型接地極(放射状接地極、垂直接地極又は板状接地極)や基礎接地極(コンクリート基礎内の相互接続された鉄筋)など | 保護レベル、地盤状況による(具体的な数値目標なし) |
高圧ガス保安法 | 可燃性ガス等の製造設備等の静電気対策 | 接地による静電気除去 | 原則:100Ω以下 / 避雷設備あり:10Ω以下 |
電気設備技術基準の解釈
日本の電気設備の安全基準は、電気事業法に基づく「電気設備に関する技術基準を定める省令」(以下、電気設備技術基準)によって定められています。そして、この省令の内容を具体的に解釈・解説したものが、経済産業省が定める「電気設備の技術基準の解釈」(以下、技術基準解釈)です。
技術基準解釈では、接地工事の種類と、それぞれの接地抵抗値の要件が規定されています。
A種接地工事
- 対象: 高圧または特別高圧の電気機器の金属製外箱など
- 目的: 感電防止、機器の保護
- 接地抵抗値: 原則として10Ω以下
「A種接地工事は、次の各号によること。
一 接地抵抗値は、十Ω以下であること。」
「電気設備の技術基準の解釈 第17条」より引用
- 例外: 大地との間の電気抵抗値が2Ω以下の値を保っている鉄骨その他の金属体(以下、「良導体」と略記)をA種接地工事の接地極として使用できる場合があります。ただし、等電位ボンディングにより接触電圧が50V以下となることが条件です。
「十八条 (中略)…使用電圧が三万五千V以下の特別高圧電路(中略)と大地との間の電気抵抗値が二Ω以下の値である場合は、…(中略)…第一項(A種接地の要件)の規定によらないことができる。」
「電気設備の技術基準の解釈 第18条」より引用
B種接地工事
- 対象: 高圧または特別高圧の変圧器の低圧側電路
- 目的: 地絡時の対地電圧上昇抑制、感電防止
- 接地抵抗値: 変圧器の容量などによって計算で求められる値以下(具体的な計算式は技術基準解釈に記載)
「B種接地工事は、次の各号によること。
一 接地抵抗値は、…(中略)…計算した値以下であること。」
「電気設備の技術基準の解釈 第17条」より引用
- 良導体をB種接地工事の接地極として使用できる場合があります。(A種接地と同様)
C種接地工事
- 対象: 300Vを超える低圧の電気機器の金属製外箱など
- 目的: 感電防止、機器の保護
- 接地抵抗値: 10Ω以下
「C種接地工事は、次の各号によること。
一 接地抵抗値は、十Ω以下であること。」
「電気設備の技術基準の解釈 第17条」より引用
- 条件を満たす良導体が利用できる場合があります。(A種、B種接地と同様)
D種接地工事
- 対象: 300V以下の低圧の電気機器の金属製外箱など
- 目的: 感電防止、機器の保護
- 接地抵抗値: 100Ω以下
「D種接地工事は、次の各号によること。
一 接地抵抗値は、百Ω以下であること。」
「電気設備の技術基準の解釈 第17条」より引用
- 条件を満たす良導体が利用できる場合があります。(A種、B種、C種接地と同様)
重要ポイント:良導体の利用と連接接地
技術基準解釈第18条では、建物の鉄骨などの良導体を接地極として利用できることが明記されています。ただし、感電防止のために等電位ボンディング(金属体間を電気的に接続し、電位差をなくす措置)などの措置を講じ、接触電圧が一定値以下になるようにする必要があります。
「第十八条 工作物の金属体を利用した接地工事は、…(中略)…大地との間の電気抵抗値が、…(中略)…規定値以下である場合は、当該金属体をそれぞれ…(中略)…接地極に使用することができる。…(中略)…感電のおそれがないよう、…(中略)…接触電圧を低減するための適切な措置を講じること。」
「電気設備の技術基準の解釈 第18条」より引用
連接接地(推奨)
高圧受電設備においては、A種、C種、D種接地工事を行う場合に、良導体を接地極として使用する際は、全接地を連接接地とすることが推奨されています。これは、接地系統を一体化することで、より安全性を高めるための措置です。(各接地点を低抵抗の電線で接続し、接地システム全体の電位を均一に近づける)
「…(中略)…A種接地工事、C種接地工事又はD種接地工事を行う場合において、…(中略)…良導体を…(中略)…接地極に使用するときは、A種接地工事、C種接地工事及びD種接地工事の接地極を連接することを推奨する。」
「電気設備の技術基準の解釈 第18条」より引用
日本産業規格(JIS)における避雷設備の接地
建築物などに設置される避雷設備(雷保護システム)の接地も、非常に重要です。避雷設備の設置や構造については、建築基準法、消防法、火薬取締法といった法律で定められており、それぞれの法律が日本産業規格(JIS)を参照する形で技術的な詳細を規定しています。
JIS A 4201:2003の廃止とJIS Z 9290-3:2019への統一
これまで、建築物等の雷保護に関するJIS規格としては、JIS A 4201:2003(建築物等の雷保護)が広く用いられてきました。しかし、建築基準法における避雷設備の構造方法を定める規定が改正され、2025年4月1日以降は、JIS Z 9290-3:2019(雷保護-第3部:建築物等への物的損傷及び人命の危険)に規定する外部雷保護システムによるものとすることが定められました。
「建築基準法施行令(昭和二十五年政令第三百三十八号)第百二十九条の十五第一号の規定に基づき、建築物に設ける避雷設備の構造方法を定める件(平成十二年建設省告示第千三百九十九号)の全部を改正する。」
「避雷設備の構造は、日本産業規格Z九二九〇―三(二〇一九)に規定する外部雷保護システムによるものとする。」
「令和6年国土交通省告示第151号」より引用
この改正により、JIS A 4201:2003は、建築基準法に基づく避雷設備の構造方法としては、原則として適用されなくなります。ただし、前述の令和6年国土交通省告示には以下の経過措置が設けられています。
「この告示の施行の日から起算して一年を経過する日までの間に、その工事に着手する建築物の避雷設備については、第一条の規定による改正前の建築物に設ける避雷設備の構造方法を定める件の規定によることができる。」
「令和6年国土交通省告示第151号 附則」より引用
つまり、2025年4月1日から1年以内に工事着手する建築物については、旧JIS(JIS A 4201:2003)を使用することもできます。
JIS Z 9290-3:2019(現行規格)について
JIS Z 9290-3:2019は、IEC 62305-3を基に国内の実情に合わせて改正された規格です。雷保護システム(LPS)の設計における接地システムの重要性は引き続き強調されており、接地極の形態(A形、B形)、構造体利用接地極の利用、ボンディング用バーの配置などが規定されています。
「接地システムは、雷電流を安全に大地に分散させ、危険な過電圧を防止するために、低インピーダンス及び低抵抗でなければならない。」
「JIS Z 9290-3:2019 5.5 接地システム」より引用
建築基準法における避雷設備
建築基準法では、一定の高さ以上の建築物に避雷設備の設置を義務付けています。
「第二十条 高さ二十メートルを超える建築物には、有効に避雷設備を設けなければならない。ただし、周囲の状況によつて安全上支障がない場合においては、この限りでない。」
「建築基準法施行令 第20条」より引用
そして、上述のとおり、避雷設備の構造方法については、JIS Z 9290-3:2019 に規定する外部雷保護システムによるものとされています(令和6年国土交通省告示第151号)。
消防法における避雷設備
消防法では、指定数量以上の危険物を貯蔵し、又は取り扱う製造所、貯蔵所、取扱所(危険物施設)に避雷設備の設置を義務付けています。
「第十条 製造所又は一般取扱所のうち、指定数量の倍数が十以上であるもの(可燃性固体類等及び第五類の危険物のみを貯蔵し、又は取り扱うものを除く。)には、避雷設備を設けなければならない。」
「危険物の規制に関する政令 第10条」より引用(一部抜粋)
従来、消防法における危険物の規制に関する規則においては、避雷設備にJIS A 4201を適用することが「消防危第321号 危険物の規制に関する規則等の一部を改正する省令の公布について」で示されていました。
しかし、建築基準法の改正に伴い、JIS Z 9290-3:2019を参照することになります。 この変更は、危険物の規制に関する規則の一部を改正する省令(令和5年総務省令第88号)によって行われました。
「危険物の規制に関する規則の一部を改正する省令」
「第十七条第一項第一号ニ中「日本工業規格A四二〇一(建築物等の避雷設備(避雷針))」を「日本産業規格Z九二九〇―三(雷保護―第三部:建築物等への物的損傷及び人命の危険)」に改める。」
「令和5年総務省令第88号」より引用
火薬取締法における避雷設備
火薬取締法では、火薬庫に避雷設備を設けることを義務付けています。
「火薬庫には、避雷設備を設けなければならない。」
「火薬類取締法施行規則 第16条第1項第11号」より引用(一部抜粋)
火薬取締法においてもJISを参照しており、「経済産業省告示第百四十五号」において、現状 JIS A 4201(2003) を参照することが明記されています。
「日本工業規格 A 四二〇一 (二〇〇三) 「建築物等の雷保護」 の外部雷保護システムに適合するものであって 、保護レベルが Ⅰ 又は Ⅱ であるもの 。」
「経済産業省告示第百四十五号」より引用
おそらく今後、火薬取締法においても「JIS A 4201(2003)」から「JIS Z 9290-3:2019」へと参照するように変更がかかると思われます。
このように、建築基準法、消防法、火薬取締法のいずれにおいても、避雷設備の技術的基準としてJISが参照されており、安全性確保のために重要な役割を果たしています。
高圧ガス保安法における静電気対策の接地
高圧ガス保安法では、静電気による災害発生を防止するための措置が規定されています。可燃性ガスまたは特定不活性ガスの製造設備等について、静電気を除去する措置が求められており、具体的な対策として、接地を行うことなどが挙げられています。
「可燃性ガス又は特定不活性ガスの製造設備等…(中略)…静電気を除去する措置を講じなければならない。」
「高圧ガス保安法 第二十四条の五」より引用(一部抜粋、表現を修正)
接地抵抗値については、原則として総合100Ω以下とする必要があります。ただし、避雷設備を設けるものについては総合10Ω以下とする必要があります。
「…(中略)…接地抵抗値が総合で百オーム以下のもの(避雷設備を設けるものにあっては、総合で十オーム以下のもの)を除く。」
「高圧ガス保安法関係例示基準 5.2.1 静電気除去」より引用(一部抜粋)
まとめ
接地は、電気設備や建築物の安全確保に不可欠な要素であり、電気設備技術基準、JIS規格、高圧ガス保安法など、さまざまな法令によってその基準が定められています。
それぞれの法令や規格の目的と内容を理解し、適切な接地工事を行うことが重要です。特に、建築物の金属体を利用した接地や連接接地、避雷設備の接地については、最新の規格や法令の改正に注意が必要です。
以下の表に、②~④で解説した法令の種類、接地の仕様、接地抵抗値の概要をまとめます。
法令/規格 | 接地の種類/対象 | 接地の仕様 | 接地抵抗値 |
電気設備技術基準の解釈
|
A種:高圧・特別高圧機器の外箱など | 原則:接地極による接地 / 例外:良導体利用(等電位ボンディング、接触電圧50V以下) | 原則:10Ω以下 / 良導体利用時:2Ω以下 |
B種:高圧・特別高圧変圧器の低圧側 | 接地極による接地、または良導体利用(条件付き) | 計算値以下 | |
C種:300V超の低圧機器の外箱など | 原則:接地極による接地 / 例外:良導体利用(等電位ボンディング、接触電圧規定値以下) | 10Ω以下 | |
D種:300V以下の低圧機器の外箱など | 原則:接地極による接地 / 例外:良導体利用(等電位ボンディング、接触電圧規定値以下) | 100Ω以下 | |
JIS Z 9290-3:2019(雷保護)(建築基準法、消防法) | 建築物等の雷保護システム(避雷設備) | A形接地極、B形接地極、構造体利用接地極など | 保護レベル、地盤状況による(具体的な数値目標なし) |
JIS A 4201:2003(雷保護)(火薬取締法) | 建築物等の雷保護システム(避雷設備) | A型接地極(放射状接地極、垂直接地極又は板状接地極)や基礎接地極(コンクリート基礎内の相互接続された鉄筋)など | 保護レベル、地盤状況による(具体的な数値目標なし) |
高圧ガス保安法 | 可燃性ガス等の製造設備等の静電気対策 | 接地による静電気除去 | 原則:100Ω以下 / 避雷設備あり:10Ω以下 |
参考文献
- JIS A 4201:2003 建築物等の雷保護 (日本規格協会):https://kikakurui.com/a4/A4201-2003-01.htmlhttps://webdesk.jsa.or.jp/books/W11M0090/index/?bunsyo_id=JIS+A+4201%3A2003
- JIS Z 9290-3:2019 雷保護-第3部:建築物等への物的損傷及び人命の危険 (日本規格協会): https://webdesk.jsa.or.jp/books/W11M0090/index/?bunsyo_id=JIS+Z+9290-3%3A2019
- 電気設備の技術基準の解釈(20230310保局第2号 令和5年3月20日付け)(一部抜粋) (経済産業省):https://www.meti.go.jp/policy/safety_security/industrial_safety/law/files/230320shourei_kaishaku.pdf
- 高圧ガス保安法関係例示基準について(内規)(一部抜粋) (経済産業省) https://www.meti.go.jp/policy/safety_security/industrial_safety/law/files/kouatsu_gas2303.pdf
- 消防危第321号 危険物の規制に関する規則等の一部を改正する省令の公布について(通知)(消防庁):https://www.fdma.go.jp/laws/tutatsu/items/3ccf3e651690f1d25c9b8a1d6c34e1b172f8134c.pdf
- 経済産業省告示第百四十五号(火薬類取締法施行規則第十六条第一項第十一号の規定に基づく経済産業大臣が定める避雷設備):https://www.meti.go.jp/policy/safety_security/industrial_safety/law/files/h27_145.pdf
- エースライオン株式会社: http://www.acelion.co.jp/
- 令和6年国土交通省告示第151号 https://www.mlit.go.jp/notice/content/001727764.pdf
コメント